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2007年06月 アーカイブ

2007年06月01日

飛行機雲

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ロンドンの空が青くなると、飛行機雲がよく見られます。
奇跡的に真っ青な空になると、5分に一回は、空を二つに分けて進んでいく白い線を見ることができます。
そういう時は、人生の可能性を信じてもいいような気がします。

谷川さんの詩は、正しくは、「空の青さを見つめていると」でした。

今日は、とにかく論理的に芝居を説明しました。これ以上ないぐらい論理的に。

うまくニュアンスを英語で伝えられない時は、本当に悲しくなります。一日に100回ぐらい、「ああ、英語だよ!」と心の中で叫んでいます。

でも、英語を仕事で使っている人は、きっと、何回も泣いているはずです。海外で生まれて、オートマッチクにバイリンガルになった人以外は、きっと、英語でうまく伝えられないことに涙したはずだと思って、自分を勇気づけます。

そんな時、空を見上げて、無限に見える青を二つに区切っていく飛行機雲に出会うと、なんだか、勇気をもらうのです。無限も、意志を持って進めば、自分の軌跡を刻めるのだと。無限も、意志を持てば、有限に分割できるのだと。

なんだか、小っ恥ずかしい文章ですが、心底、そう思います。

2007年06月02日

うむむ、議論は続く

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ケイコ場でのリハーサルもあと二日。明日は、最後の通しだという所で、議論が勃発。
ここまで、サクサクと進んできたけれど、さすがに、初日が近づくと不安になるのだろう。
『トランス』は、とても、精神的に揺さぶられる芝居なので、本人が不安定だとつらいのだ。

どこか、のほほんとした図太さがないと耐えられない作品である。

さんざん議論して、ケイコが進まず、頭を抱える。
こういうこともないと、異文化の交流は始まらないのだろうが、しかし、ここに来てと、うむむとうなる。
論理の国に、迷宮とあいまいさを持ってきたのだ。覚悟はしていたが、腰に来る。
明日は、ケイコ場最後の通し。

さあ、どうなっていることやら。厳しい報告のブログになるか、幸福な報告のブログになるか。

写真は、ケイコ場の近くのバス停の前にある教会。
やっぱり飛行機雲が、世界を分けている。

いやはや。

2007年06月03日

やれやれ

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通しは、すこぶる快調に進みました。混乱していた俳優も、見事に立ち直りました。
僕も、なぜ、詩を言うのか、最後、トランスは、どのように’論理的’に展開するのかを、必死で説明しました。

みんな、「ああ、メイク・センス」とうなずいてくれました。

よかった。絶望しなくて。よかった。死ななくて。

まあ、こんなこともないと、異文化バトルといえないのでしょうが、なるべくなら、ない方がいいですからね。

詳しくどんなことがあったのかは、そのうち、たぶん、本にします。このスペースだと書き切れないので。

とりあえず、15分の休憩を入れて、2時間10分でした。

で、見に来たブッシュシアターのプロデューサーは、「あと、10分、切れるといいわね」と微笑みました。

通しが終わったあと、演出補のサラとドラマターグのトニーも、いろいろとアドバイスしに来ました。
演出家をやっていて、通しの終わったあとに、ここまでいろんなことを言われるのは、初めての経験です。こっちは、劇場が作品を認め、提供するので、劇場側のプロデューサーや芸術監督の発言権が強いのです。

ま、そんなに自分の実感と離れた指摘がなかったので、まあ、一安心。

で、写真は、バレーボールで今日もアタックを続けていた演出補のサラと、重鎮、ドラマターグ(戯曲の翻訳の時に、イギリスの文化をふまえたアドバイスをする人)のトニーです。

通しが終わって、ほっとした瞬間に撮りました。

2007年06月04日

劇場入り

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いよいよ、劇場入りです。日曜の今日は、役者はお休み。スタッフが朝からしこしこと照明や装置を搬入しています。んで、演出家は、目鼻がついた夕方から夜に劇場に行く。
ここらへんは、日本とまったく同じですなあ。

行くと、装置がたっていて(これが、ボブの装置でなかなかいいのですよ)、スタッフたちが、「あれえ、注文した装置より30センチ、短いぞお」と話しています。見れば、装置の端が、劇場の壁より、たしかに30センチ、短いのです。

装置のボブと、舞台監督のボブ(同じ名前で、じつにややこしいのですが、大きなボブと普通のボブ、または、大人のボブと若いボブと呼んでいます。装置のボブは、大きくて大人です)が、「ま、しょうがないか」という顔をして、なにごともなかったかのように、作業を始めました。

日本なら、大問題ですわな。そっこく作り直しか、金銭保証か。けれど、イギリスでは、「ま、しょうがないか」で終わるのです。

小道具のキューブも、5つって注文したのに、4つしかこなかったし、ま、それはそれでノン気でいいんだけど、んでも、車とか飛行機とか、どーしてんだろうと思いますね。そういう時は、必死でやるのかな。じゃあ、芝居の装置は必死じゃないってことか?
うむむ。分からん。

写真は、ブッシュシアターの外観。パブの二階三階にあるこじんまりとした劇場です。
ちなみに取った時間は、夜の8時半です。でも、この明るさですわ。

もう一枚は、劇場の正面の出し物欄です。

劇場の正面は、広い公園です。これからは、いい季節になります。

2007年06月05日

音響のジャックを紹介します……って暗い!

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というわけで、劇場入り、二日目は、床に白ペンキを塗ったら、床から得体の知れない黄色い’何か’が浮かんで来て、白い床はまだらの黄色に変わり、劇場は大騒ぎになりました。

んで、結局、明かりづくりが始まったのは、4時間押しでした。
4時間、劇場スタッフは、じつに楽しそうに、「もう塗ってもだめだなあ」「じゃあ、ビニールシートを引こうか」と相談していました。

見ていて、なんだかノン気な気持ちになってくるのですが、しかし、4時間、そんなことをやっているのです。

日本なら、間違いなく怒号が飛び交っている所でしょう。というか、4時間も相談しませんわな。1時間で、なんとかなっているはずです。

これも、じつは、水曜、木曜のプレビューは、まったくプレビューで、本番は、マスコミの入る金曜だという意識があるからみたいです。

日本だと、プレビューで悪い評判がでて、ネットにでも書かれたらどうしよう、なんていろいろ心配してしまいそうですが、(と言いながら、僕はまだプレビュー形式では日本でやったことはありませんが)こっちは、見る方もやる方も、「だって、プレビューだもん」という意識があるんだそうです。

その分、金曜のプレスナイトでしくじったら、一貫の終わりだというシビアな認識もあるようです。

写真は、よく見えないと思いますが、(今度、撮り直しますが)音響のジャックです。作曲もします。じつにナイスなセンスをしています。
最後の詩を読む時の音楽なんざあ、感動的です。

で、ジャックの最近の楽しみが、このブログを「日本語→英語」の自動翻訳ソフトにかけて、訳の分からない英語を読んで、大笑いすることです。

たしかに、英語を日本語の自動翻訳ソフトにかけると、もっすごい文章がでてきますからね。
その逆ですね。

写真は、見えないと思いますが、まさに、昨日のブログの英語翻訳を見て、笑っている所です。

2007年06月06日

いやはや

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昨日の4時間押しのツケが回って、ダンドリ・きっかけ(照明と音響と装置と役者のあわせ)を最後までできないまま、通しに突入。

そんな無茶なことをしたのは、演出家になって初めてのこと。なんで、26年間の演出家生活で初めてのことを、ロンドンでせにゃならんのか。

当然、俳優は混乱し、セリフをとちり、ものすごくナイーブになっていく。

んで、床をビニールしたら、小道具の立体キューブが摩擦でまったく動かず、なおかつ、必死に動かそうとして、俳優たちは、背中を痛めてしまった。

いやはやである。

本当にいやはやである。

写真は、借りているフラットから劇場まで、今回は、二階建てバス(ダブル・デッカー)に乗って通っている。この時間は至福の時。
一番前に乗って、青空を見ていると、まあ、なんとか生きていくか、という気になる。

行きと帰りに撮りました。

帰りの写真、ぼんやり、車内の僕も映っています。

2007年06月07日

なんとか

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なんとか、初日の幕が開いた。ブッシュ・シアターの芸術監督は、「成功したね」と微笑んだ。
まだまだ、やることはたくさんあるのだが、とにかく、役者たちと、美味しいビールを飲んだ。

今日は、ぐっすり眠れそうだ。

写真は、パブで飲んで、赤くなったまま、バスに乗っている僕。そう、僕はとてもお酒に弱いのだ。

あとの二枚は、こっちで一番有名でとんがっている情報誌「タイム・アウト」の演劇のフロント・ページに、どでかい写真つきでインタビューが載ったというやつです。

すごいです。「タイム・アウト」を、ロンドンに来るたびに買って、芝居をチェックしていた僕としては、ちょっと感激です。

明日は、プレビュー二日目。もっともっとよくなるように、しこしことがんばります。

2007年06月08日

プレビュー二日目

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二日目の今日は、ちょっと、テンポが悪く、いまひとつでした。
終わってから、役者たちと話すと、「いやあ、二日目だよねえ」となりました。
「なんだ、日本でも、『二日落ち』っていう嫌な言葉があって、初日がよかった時に、二日目にデキが悪くなることがあるよ」と言うと、ステーブが、「こっちでも、セカンド・デイ・ブルーなんて言うよ」と教えてくれました。なんだ、これも、世界共通なのね。(たぶん)

ラシャンは、「昨日は、ハイパー。今日は、チェーホフだったね」と絶妙のたとえをしました。
といって、もちろん、最低の水準はちゃんとクリアしているので、そんなに問題ではないのですが。

今回の写真は、副舞台監督のマリーです。
ケイコの初日から、ずっとつきあっているスタッフは、マリーだけです。そして、なんと信じられないことに、劇場で、すべてのキューを出します。
音楽も照明も、です。
ふだん、ブッシュ・シアターは、照明のキューが50ぐらいの芝居が多いのに、今回の『トランス』は、190ぐらいあって、マリーに謝っています。なおかつ、音響のキューもたくさんあって、そのたびに、マリーはスイッチを押すのです。

もし、ブッシュ・シアターに見に来ることがあったら、一番後ろの客席の上手の端に、小さなブースがあって、そこにマリーはいます。

芝居が終わったあと、一言、「マリー、グッド・ジョブ!」と言ってあげてください。シャイな女性ですが、きっと喜びます。

さて、明日はいよいよ、プレス・ナイトです。この芝居の運命が決まります。まだまだ、やることは一杯あるのです。

2007年06月09日

うっほーい!

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実質的な初日が開きました。とてもいいデキでした!朝の9時からいろんなことがあって、まるで、ドラマのようで、ここではなかなか書けないこともたくさんありました。

けれど、芝居は、大成功しました。しかめっ面で有名な評論家も、楽しそうに見ていたと、プロデューサーが衝撃的に教えてくれました。

夜中の三時まで、スタッフと初日成功祝いをしました。もちろん、役者は、12時ぐらいに帰りました。その時のパーティーの写真です。

この日まで、どれだけ大変だったか。

うむむ。夜中、ロンドンの街で思いっきり、叫びました。感動の声です。

うっほーい!やったぞー!

あとは、劇評を待つだけです。うっほーい!やったぞー!

2007年06月19日

ご無沙汰しました

初日があいて、ずっとごぶさたしました。劇評は、「まあまあ好評」というところで、大手の新聞は、五つ星中三つ星が主流です。
もちろん、激しくほめてくれているものも、けなしているものもありますが、主流は、三つ星の「まあまあいいです」に集中しています。こっちは、「絶賛」を期待していたので、正直、ちょっと肩すかしです。

一番多い批評のパターンは、「ジャン・ジュネやピランデルロを知っている我々には、この作風は馴染み深い」というようなものです。プロデューサーは、ちょっと不満そうな僕に「なに言ってるんですか。世界演劇史に残っているジャン・ジュネやピランデルロと比較されているんですよ。それだけで名誉なことじゃないですか」と、言っていました。

それはたしかにそうです。だいいち、1993年に書いた戯曲ですから、日本でだって、今、上演する時は、「新しさ」をメインに押し出してはいないので、「んなこと言われてもなあ」と、ちょっと思っています。

でも、劇評だけで、20本近く出ています。それだけでもすごいです。ほとんどの劇評が、役者のアンサンブルのよさと演技の素晴らしさを褒めてくれているのは、うれしくて、ほっとしています。。

で、こんなにブログの更新が遅れたのは、初日からしばらく飲み歩いていたのと(わははは)、けれど、次の週の火曜の夜、終演後に俳優の一人が肺気胸で緊急入院をしてしまったからです。ひょえ〜!

で、日本だと、多分,すぐに公演中止だと思うんですが、そこは演劇の国イギリスなのか、劇場の芸術監督(劇場側の一番偉い人ね)は慌てず騒がず、平気な顔で、その日のうちに代役を探し出し、稽古を続けながら、台本を持ったままの公演をやりとげているのですよ。すごいですわ。
でまあ、幕が開いたのに、忙しいのね。
いやあまあ、ロンドンで演出家生活初めての体験ですわ。

芝居自体は、ものすごくいい感じで進んでいて、毎日、よくなっていただけに、入院という”具体的”な事態は、ちょっとショックです。でもまあ、アンダースタディー(まさかの時の代役)も立てなかったかからこそ、素敵な人間関係を築けたのです。
俳優の回復を待ちながら、台本を持って読む代役で稽古しながら、公演を続ける日々です。

まさに、ショウマストゴウオンの世界です。
なんて、スリリング!


写真は、パーティーのものです。
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これが装置家のボブです。

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左より、装置のボブ、照明のマルコム、副舞台監督のマリー、そして、演出補のアタック・サラ

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パーティーで感謝のシャウトをしているおいら

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メレディスと僕

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一番左、パーティーに来たレイモンド

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