2001.02.01

image

KOKAMI@network vol.2
「プロパガンダ・
  デイドリーム」

作・演出 鴻上尚史*

出演*

加納幸和
大高洋夫
筒井真理子
大倉孝二(NYLON100℃)
 ・
乾貴美子
 ・
旗島伸子
高橋拓自
生方和代
横塚進之介
 ・
麿赤兒

 ほか

企画・製作 サードステージ*




鴻上尚史×加納幸和(取材・大原かおる 協力 レプリーク)


●今回の「プロパガンダ・デイドリーム」ですが、KOKAMI@networkに加納幸和さんを呼ばれたことを中心にいろいろ伺っていきたいと思います。


鴻上「僕が加納さんのステージを初めて見たのは、'89年かな、『広島に原爆を落とす日』っていう公演があって、第一声を聞いた瞬間に、こんなうまい俳優がどこにいたんだ!って、本当の話思ったの、お愛想じゃなくてね。びっくりしたの。で、誰あの人?って聞いたら、花組芝居の加納幸和さんですよって。

客演で今までに何人か第三舞台に出てもらったこともあるんだけど、加納さんを第三舞台に呼ぶって事は、基本的に有り得ないと思うんですね。麿さんもそうですけど、・・・麿さんの例が一番分かりやすいかもしれない(笑)。

やっぱり、ある劇団に入っていくっていう意識が、来て下さる方にあって、それはなんか申し訳ないなっていうふうに思うんですよ。まず、劇団の稽古方法、劇団の感性みたいなものになじんでもらうっていうことになるのは、何だか面白くないな、と。

じゃあ、加納さんとか僕がいつかお願いしたいって思ってる人に、もっと気軽に声をかけられるようなシステムがないかなってことで、それで始めたのがKOKAMI@networkです。

それと、もう一個理由があるとすると、第三舞台っていうのがもともと無名で 貧乏な若い奴らで一緒に始めて、それがそこそこみんなやれるようになってきて、で、僕は俳優が育っていくのがやっぱり好きなもので、これからの奴らにも同じように 育っていって欲しいなっていうのがあって。で、それもやっぱり劇団でやれば、(上がいるから)順番待ちみたいになっちゃうんで。

なるべくもっと自由に出来て、なおかつ加納さんのような上手い俳優さんとちゃんと出会える場所があるといいんじゃないかと。そういうことも出来る場だろうなと思って始めた訳なんです。加納さんは、それこそ俳優を育てるのが名人ですから。
花組芝居を見ると次々と新しい俳優が出てきてますからね。そういう面でもお願いしたいと思いました」


●鴻上さんの作る舞台と花組芝居とは非常にかけ離れた印象があるので、一緒におやりになるって聞いて非常にびっくりしたんですけども。鴻上さんの方から加納さんに出演の依頼をされたんでしょうか?


鴻上「そうです、そうです。それはでも、かけ離れてるって言いながらも、村は違うかもしれませんけど、同じ川岸だと思うんですよ。やっぱり演劇って言うのは、一夜の夢だし、芸術でもあるけど、エンターテイメントでもある。そういう意味でお金を払って来てくれるお客さんに対してはやっぱり誠実に対応したいと思っている側。それは大きく言えば同じ川岸だと思ってますね」


加納「外から声をかけて頂いた時は、わりかし二つ返事って言うか(笑)。まぁ、基本的に言えば、うちではあんまり現代劇をやらないんで、・・・やりたいんですよね(笑)。もしも現代語を使う芝居をうちの劇団でやるとしても、やっぱり自分たちの方に引き寄せてやっちゃうと思うんで。でも逆に言うとプレッシャーですよ。特に僕はほとんど女形なんで、今回のような役は、めったにやらないもんですから」


●加納さんの女形はどう思われますか?


鴻上「ものすごく色っぽいと思いますよ。」


●そういえば鴻上さんが、花組芝居の『怪誕身毒丸』に出演されたって聞いてびっくりしたんですけど。


鴻上「あれは出たんじゃないぜ(笑)。あれはお茶濁しに行っただけ!。あれは出演とはいいません、『バケツおやじ登場、以下よろしく』ですからねぇ(笑)。以下よろしくっていう台本はないでしょ(笑)」


●以下よろしくって、何をやられたんですか?


鴻上「しょうがないから、隣でワークショップやってたんだけど、お前らうるさいぞって言って出ていって、花組芝居の若い人に、じゃあワークショップやってて言われて。・・・あの、ワークショップって見せ物じゃないんですけどね、でも一応やってくれっていうから、はい分かりましたって(笑)」


●男優として加納さんに出演してもらおうと最初からお考えになっていたんですか?


鴻上「そうですね。たとえば時代劇で僕が加納さんを女形としてオファーしても、あまり意味はないなと。花組芝居でやらないことをやって欲しいと思うからですよね。加納さん、男役でやっててもすごく色気を感じるんですよ。その色気をお願いできたら良いなって思って」


●加納さんは女形の役をおやりになる時と、男の役をおやりになる時とではかなりご自分で違うことを意識されてますか?


加納「それはおそらく普通の方が女形をおやりになる時に、形どうしようとかいつも気にしながら、芝居をなさると思うんですね。その逆パターンをやってるというか、何かまだ慣れないとこっていうのはあるんですけど、気持ちの上では、あんまり変わらないですね。ただまぁ、声の出し方とか、身体の使い方が違うぞ、みたいな。ただ形の問題だけで」


●今回の加納さんの役は、どういった感じの役なんでしょうか?


鴻上「現実と戦っていることによって、仕事が全く来なくなっているルポライターの役です。でも、色々早変わりもしていただくので、」


加納「麿さんの妹さんとか(笑)


鴻上「西日暮里のおばちゃんですね(笑)」


加納「ところで、西日暮里のおばちゃんて・・・何?」


鴻上「いや、たいした意味ないんですけどね、何となく浮かんでしまったんですね(笑)」

photo photo photo

photo

photo photo

●「メディア」について描かれるっていうのは、テレビに関しての事でしょうか?


鴻上「そうですね。麿さんの役が、二人の人を殺している子供の父親の役なんですけど。それが世間に対して一切謝罪をしない、つまり息子がしたことは息子が謝るべきであって、父母が謝罪をしてしまうと、息子は単なる親の従属物になってしまうから、わしは謝罪しないっていう父親。

で、その娘さんが、ルポライターの加納さんの所に来て、私の父のことを極悪人として書いて下さいってお願いするんですよ。何でそんな事を言うんですか?って聞くと、その娘さんは自分で小説を書いて、その小説をすごく有名にしたいので、書いて下さいというふうに言うんですよ。

最初は目撃者なんですけど、娘さんがそこから先、自分で騒ぎを大きくしていくんですが、加納さんの役の『山室』っていう人に、あなたは目撃して書くだけで、私は飛び込んで行く。あなたは最後まで目撃して見つめるだけなんですか?っていうふうに引きずり込まれていくと」


●加納さんがおやりになるとは思えないような?


加納「そうですねぇ」


鴻上「そうですかね?」


加納「今までどうしても、マッドサイエンティストとか神経質な役とか。今回はそんな感じではないですね」


鴻上「違いますね」


加納「今までどうしてもそういう役が多かったんですけど、・・・僕は単純な話、普通の男の役で、やっぱり新劇の男優になりたいと思ってこの世界に入ってきたんで」


鴻上「本当ですかぁ?!」


加納「そうなんですよ(笑)。・・・女形をしたり、演出をしたり、本を書いたりとか、ある種そうしながら、俳優としてやってきたところがあって・・・それはそれでありがたかった、色々ないい事があったんですけれども。ただ一個の俳優に立ち返ったときに、それでいいのか?そんな武装しないで、ぽーんとそのまんまで立って、舞台の空間を埋めるっていう事をやれるようにならないと、ちょっとダメなんじゃないかなっていうのは、最近とくに感じるんですよ。

あと、・・・まっ、大概のうちの役者は僕よりも少しあとからこの世界に入った人間なんで、こっちの方が経験が少しあるわけですよ。そうするとどうしても、教えるって言うのもおこがましいんだけど、こうした方がいいとかなんとかで、演出をする。女形に関しては他にはあまりいませんから、色々ああだこうだって言えますけど、男役に関しては経験を積むと若い連中は吸収が早いですから、どんどんどんどん行っちゃうんですよね。だから自分がもっともっと何か経験の引き出しを持っていて、こういうのもいいんじゃないか、ああいうのもいいんじゃないかって、新しい信号を出せないといけないんじゃないかって。

自分は俳優として男の役をきちんとやりたい。それでまた、演出するときはおこがましい所がないといかんなと。・・・そこのところを今年は頑張るぞ、という(笑)」


●お話を伺っていると、加納さんと鴻上さんとは対照的な感じがするんですけど。集団を大きくするのとそうでないやり方というのとがあるとすれば、鴻上さんはそうでないやり方の方かなと。


鴻上「そうでないところに行かないといけないと自分で思ってるんですよ。第三舞台ってのは、一回、すごく上がっちゃいましたから。もう幻の劇団って呼ばれてますから(笑)。劇団っていうのは色々とタイプがあってね、下から若い者がいっぱい入ってきて新陳代謝を繰り返しながらいく劇団もあれば、何百人もの劇団員がいるのもある。第三舞台は8人でやってましたから、8人で上がったらしばらくはもういいんですよ、みんな大人ですから。8人で15、6年やってましたからね・・・大高なんか18で新潟から出てきて・・・オレと付き合ってる方が出てくる前より長いんだよ(笑)っていうのがあってね。もう何年かに一回会うのでいいんじゃないかって、二人で喋ったんです(笑)。ただ、たまにやっとかないと、みんな忘れるんで(笑)。・・・みんなっていうのはお客さんの事じゃなくて、役者同士がね(笑)。

新しい関係性を作るのが、自分の次の仕事だろうなと思っているんですよ。それはでも、加納さんが今言われた、"オレの背中を見ろ"っていうのとすごく近いと思ってるんですよ。この間の、筧(利夫)とやったやつとか、まぁ、今回は大高(洋夫)と(筒井)真理子がいますけど、でもどっかでやってて、何となくお互い背中を見てるっていうのが、今は僕ら作らなくちゃいけない関係性だと思っているんですよ」

加納「ただうちの場合はちょっと特殊すぎるんでね。"はい、やって"って言っても出来ないんですよ。3年から5年ぐらいかけないと色が出てこないんですよね。すごく引っかかっちゃうんですよ。それはうちのがそういうのを目標にするんだっていうのでやってきたもんですから、ある種、純血性みたいなものっていうのは、崩れていかないように大事にしないといけないんです。

そういう点では、組織的に開いていっちゃうことは、おそらくやらないと思うんですけど。ただ、うちじゃない舞台でも通用できる俳優さんになってもらわないと、可哀想・・・っていうのもある。お互いに自閉的になっちゃいけないというのは思うんですけどね」


●では、ほかの出演者について。今回は、乾貴美子さんが初舞台ということですが。


鴻上「大胆ですねぇ。でも、ニュースキャスターの役なので、いけると思いますよ。キャスターをやってた時の、あっ、確かこの人テレビで見たな、喋ってたよねっていう、現実と凄く繋がっときたいというのがあって。そういうリアリティーが欲しかった」


●大倉孝二さんは?


鴻上「大倉君はその"変さ"がいとおしいので、お願いしました。・・・変だよねぇ。あれ狙ってんのかな?地かな?」


加納「違うんじゃないですか?地を生きるんだと本人は考えてるんだとは思うんですけどね。・・・どんな役でも自分に引き寄せちゃう」


鴻上「(笑)それは誉め言葉なんだろうか?」


加納「羨ましいんですよ、そういう役者って。僕は新劇の役者になりたいと思っていたんですけど、最初のダメ出しが、お前は演技をその場で自分で批評するからいけねぇーんだって言われたんですよ。で、結局、存在感っていうのか、そういうものをどうやって出せばいいのか分からなかったんですね。で、ずーっとそれでやってきちゃったもんで、大倉君みたいに、存在感なんか考えてないですよ、でも存在感あるよっていうのはものすごく羨ましいんですよね」


鴻上「変だよね。・・・結論としては変だよね(笑)」


●麿さんは?


加納「・・・今日(の稽古)面白かったぁ。あの役であの声出すかと(笑)」


鴻上「親分は・・・おかしい(笑)。せりふ覚えないくせに。せりふとちるくせに、最後帰り際に、ちょっとせりふ少ないんじゃないか?とか(笑)。これで増やすとね、絶対覚えないんだよ(笑)」


●今まで劇団の座長をなさっている方を役者としてお使いになるってことは?


鴻上「僕、座長さん好きなんですよ、ほんとに。前回(『ララバイ または百年の子守唄』)、ワハハ本舗の佐藤正宏さんにお願いしたのも、やっぱりね、台詞に説得力が出て来るんですよ、普段苦労してるから」


●加納さんからみて、鴻上さんにこんな演出をしてもらいたいなというのは?


加納「いや、僕はないです。気になったら言ってください」


鴻上「(笑)」


●加納さんに見せてもらいたいものは?


鴻上「そぎ落とす感じ?遊ぶところは遊ぶんだけど、そぎ落とすところは凄くそぎ落とす。それでも逆に、加納さんが持ってる色気は、にじみ出てくると思うんで、足さないでそぎ落とす、そういう加納さんが見れたら凄くいいなって思いますよ」


加納「いや、僕出来ないですよ」


鴻上「何言ってるんですか!(笑)」


加納「いやいや(笑)」


鴻上「加納さん持ってるじゃないですか、手の内。いっぱい持ってますよ(笑)」




Copyright (C) thirdstage Inc.