|
●「メディア」について描かれるっていうのは、テレビに関しての事でしょうか?
鴻上「そうですね。麿さんの役が、二人の人を殺している子供の父親の役なんですけど。それが世間に対して一切謝罪をしない、つまり息子がしたことは息子が謝るべきであって、父母が謝罪をしてしまうと、息子は単なる親の従属物になってしまうから、わしは謝罪しないっていう父親。
で、その娘さんが、ルポライターの加納さんの所に来て、私の父のことを極悪人として書いて下さいってお願いするんですよ。何でそんな事を言うんですか?って聞くと、その娘さんは自分で小説を書いて、その小説をすごく有名にしたいので、書いて下さいというふうに言うんですよ。
最初は目撃者なんですけど、娘さんがそこから先、自分で騒ぎを大きくしていくんですが、加納さんの役の『山室』っていう人に、あなたは目撃して書くだけで、私は飛び込んで行く。あなたは最後まで目撃して見つめるだけなんですか?っていうふうに引きずり込まれていくと」
●加納さんがおやりになるとは思えないような?
加納「そうですねぇ」
鴻上「そうですかね?」
加納「今までどうしても、マッドサイエンティストとか神経質な役とか。今回はそんな感じではないですね」
鴻上「違いますね」
加納「今までどうしてもそういう役が多かったんですけど、・・・僕は単純な話、普通の男の役で、やっぱり新劇の男優になりたいと思ってこの世界に入ってきたんで」
鴻上「本当ですかぁ?!」
加納「そうなんですよ(笑)。・・・女形をしたり、演出をしたり、本を書いたりとか、ある種そうしながら、俳優としてやってきたところがあって・・・それはそれでありがたかった、色々ないい事があったんですけれども。ただ一個の俳優に立ち返ったときに、それでいいのか?そんな武装しないで、ぽーんとそのまんまで立って、舞台の空間を埋めるっていう事をやれるようにならないと、ちょっとダメなんじゃないかなっていうのは、最近とくに感じるんですよ。
あと、・・・まっ、大概のうちの役者は僕よりも少しあとからこの世界に入った人間なんで、こっちの方が経験が少しあるわけですよ。そうするとどうしても、教えるって言うのもおこがましいんだけど、こうした方がいいとかなんとかで、演出をする。女形に関しては他にはあまりいませんから、色々ああだこうだって言えますけど、男役に関しては経験を積むと若い連中は吸収が早いですから、どんどんどんどん行っちゃうんですよね。だから自分がもっともっと何か経験の引き出しを持っていて、こういうのもいいんじゃないか、ああいうのもいいんじゃないかって、新しい信号を出せないといけないんじゃないかって。
自分は俳優として男の役をきちんとやりたい。それでまた、演出するときはおこがましい所がないといかんなと。・・・そこのところを今年は頑張るぞ、という(笑)」
●お話を伺っていると、加納さんと鴻上さんとは対照的な感じがするんですけど。集団を大きくするのとそうでないやり方というのとがあるとすれば、鴻上さんはそうでないやり方の方かなと。
鴻上「そうでないところに行かないといけないと自分で思ってるんですよ。第三舞台ってのは、一回、すごく上がっちゃいましたから。もう幻の劇団って呼ばれてますから(笑)。劇団っていうのは色々とタイプがあってね、下から若い者がいっぱい入ってきて新陳代謝を繰り返しながらいく劇団もあれば、何百人もの劇団員がいるのもある。第三舞台は8人でやってましたから、8人で上がったらしばらくはもういいんですよ、みんな大人ですから。8人で15、6年やってましたからね・・・大高なんか18で新潟から出てきて・・・オレと付き合ってる方が出てくる前より長いんだよ(笑)っていうのがあってね。もう何年かに一回会うのでいいんじゃないかって、二人で喋ったんです(笑)。ただ、たまにやっとかないと、みんな忘れるんで(笑)。・・・みんなっていうのはお客さんの事じゃなくて、役者同士がね(笑)。
新しい関係性を作るのが、自分の次の仕事だろうなと思っているんですよ。それはでも、加納さんが今言われた、"オレの背中を見ろ"っていうのとすごく近いと思ってるんですよ。この間の、筧(利夫)とやったやつとか、まぁ、今回は大高(洋夫)と(筒井)真理子がいますけど、でもどっかでやってて、何となくお互い背中を見てるっていうのが、今は僕ら作らなくちゃいけない関係性だと思っているんですよ」
加納「ただうちの場合はちょっと特殊すぎるんでね。"はい、やって"って言っても出来ないんですよ。3年から5年ぐらいかけないと色が出てこないんですよね。すごく引っかかっちゃうんですよ。それはうちのがそういうのを目標にするんだっていうのでやってきたもんですから、ある種、純血性みたいなものっていうのは、崩れていかないように大事にしないといけないんです。
そういう点では、組織的に開いていっちゃうことは、おそらくやらないと思うんですけど。ただ、うちじゃない舞台でも通用できる俳優さんになってもらわないと、可哀想・・・っていうのもある。お互いに自閉的になっちゃいけないというのは思うんですけどね」
●では、ほかの出演者について。今回は、乾貴美子さんが初舞台ということですが。
鴻上「大胆ですねぇ。でも、ニュースキャスターの役なので、いけると思いますよ。キャスターをやってた時の、あっ、確かこの人テレビで見たな、喋ってたよねっていう、現実と凄く繋がっときたいというのがあって。そういうリアリティーが欲しかった」
●大倉孝二さんは?
鴻上「大倉君はその"変さ"がいとおしいので、お願いしました。・・・変だよねぇ。あれ狙ってんのかな?地かな?」
加納「違うんじゃないですか?地を生きるんだと本人は考えてるんだとは思うんですけどね。・・・どんな役でも自分に引き寄せちゃう」
鴻上「(笑)それは誉め言葉なんだろうか?」
加納「羨ましいんですよ、そういう役者って。僕は新劇の役者になりたいと思っていたんですけど、最初のダメ出しが、お前は演技をその場で自分で批評するからいけねぇーんだって言われたんですよ。で、結局、存在感っていうのか、そういうものをどうやって出せばいいのか分からなかったんですね。で、ずーっとそれでやってきちゃったもんで、大倉君みたいに、存在感なんか考えてないですよ、でも存在感あるよっていうのはものすごく羨ましいんですよね」
鴻上「変だよね。・・・結論としては変だよね(笑)」
●麿さんは?
加納「・・・今日(の稽古)面白かったぁ。あの役であの声出すかと(笑)」
鴻上「親分は・・・おかしい(笑)。せりふ覚えないくせに。せりふとちるくせに、最後帰り際に、ちょっとせりふ少ないんじゃないか?とか(笑)。これで増やすとね、絶対覚えないんだよ(笑)」
●今まで劇団の座長をなさっている方を役者としてお使いになるってことは?
鴻上「僕、座長さん好きなんですよ、ほんとに。前回(『ララバイ または百年の子守唄』)、ワハハ本舗の佐藤正宏さんにお願いしたのも、やっぱりね、台詞に説得力が出て来るんですよ、普段苦労してるから」
●加納さんからみて、鴻上さんにこんな演出をしてもらいたいなというのは?
加納「いや、僕はないです。気になったら言ってください」
鴻上「(笑)」
●加納さんに見せてもらいたいものは?
鴻上「そぎ落とす感じ?遊ぶところは遊ぶんだけど、そぎ落とすところは凄くそぎ落とす。それでも逆に、加納さんが持ってる色気は、にじみ出てくると思うんで、足さないでそぎ落とす、そういう加納さんが見れたら凄くいいなって思いますよ」
加納「いや、僕出来ないですよ」
鴻上「何言ってるんですか!(笑)」
加納「いやいや(笑)」
鴻上「加納さん持ってるじゃないですか、手の内。いっぱい持ってますよ(笑)」
|