で、「虚構の劇団」って何なのよ?
という疑問に、主宰・鴻上尚史がお答えします。
――どうして、劇団を旗揚げするのですか?
鴻上 「いくつかの理由があります。ひとつは、僕が良くも悪くも『教師体質』だということですね。やっぱり、若い俳優が成長するのを見るのが好きなんですね。一緒に、うまくなっていく俳優を見るのは、本当に喜びなので、また、あの感動を『第三舞台』以来、味わいたいということです。
二つ目は、僕は現代を描く作家なのですが、現在の日本の演劇界では、通常、1年半から2年、極端な場合は、3年先の芝居のスケジュールを決めなければいけないようになっています。これは、劇場を押さえるためには、しょうがないんですね。いえ、おかしいと思うんですけど、そうなっているんです。で、比較的大きな興行をするためには、2年から、2年半先の俳優さんのスケジュールをお願いするために、最低限、シノプシスを2年前に書かないといけないわけです。
でも、2年先の作品なんてのは、現代を描く僕としては、まったく、分からないわけです。だって、日本で9・11のようなことが起こったら、そこからまた世界の見方は変わるかもしれないでしょう。なので、ほんとに困った状況なのです。
が、劇団の場合、本番の数週間前の稽古初日に台本があればいいんですね。だから、ちゃんと今を切り取った作品を書くことができる。それは、作家としての僕には、とてもありがたいスケジュールなんです。
三つ目は、僕自身の演劇観を共有する若い俳優と一緒に芝居を作りたいということです。じつは、蜷川幸雄さんの『キッチン』に俳優として出演させてもらった時に、ニナガワ・スタジオ/カンパニーの俳優さんがたくさんいたんですね。
彼らは、蜷川さんがどんな作品を作りたいかとか、どんな演出をするのかをよく知っているわけです。で、蜷川さんは、彼らがいるから、安心して作品をたくさん創れるんだと分かったんです。そういう関係を持つ俳優さんがいるといいなあと思ったんです。
それが、『虚構の劇団』を創ろうと思った主な理由です。」
――どんな劇団になるんですか?
鴻上 「それは、どんな人間が集まるか次第です。よく、「稽古時間はどれぐらいですか?」とか「演出家の命令は絶対ですか?」とか質問を受けるのですが、すべては、メンバー次第です。
『第三舞台』もそうでしたが、劇団というのは、どんな人間が集まるかによって決まってくるのです。はっきりしていることは、「劇団の入団費やレッスン費などのお金はいらない」ということです。公演のための稽古場代などが必要になった時は、鴻上を含めて、全員で頭割りにします。すべてが、俳優と鴻上は同じ条件ということです。
なので、鴻上は、絶対の命令者ではありません。鴻上と俳優は、表現という現場において、よりよい表現のために、戦い・協同する者同士です。それは、道徳的な意味で「民主主義的」なのではなく、表現の現場においては、自由な発言と試行錯誤が、表現を磨き、鍛え上げていくと思っているからです。
どれぐらい公演するのか、どれぐらい稽古するのか、いつ稽古するのか、どんな作品をするのか、それらは、すべて、あらかじめ鴻上の頭の中にあるのではなく、集まってきたメンバーとの話し合いや活動の中で、決まっていくことなのです。」
――鴻上さんはすでに『第三舞台』という劇団を主宰なさってますが。
鴻上「もちろん。でも、若い者はいないでしょう(笑)。若い俳優との関係性を創りたいのです。
あ、それと、10年の封印を解いた2011年の公演を含めて、『第三舞台』がどうなるかは、メンバーと相談して決めることですから。」
――他の劇団や事務所に所属していてもいいですか?
鴻上「もし公演の時期が重なったら、どちらを優先するか、がどの劇団員なのかという意識だと思います。封印していれば別ですが、両方とも同じぐらいの意識で劇団員というのは、不可能なんじゃないでしょうか。
事務所は、大丈夫だと思います。ただし、劇団の活動をちゃんと優先・尊重していただける事務所でないと難しいかもしれません。売れるまでの、演技レッスン場とだけ思われては、劇団としてのまとまりがとれないので、それは、避けて下さい。」
――鴻上さんの考える劇団とはなんですか?
鴻上 「劇団とは、失敗と試行錯誤が許される場所です。プロデュース公演では、失敗は許されません。失敗すれば、次はないでしょう。けれど、劇団は、失敗しても次があります。それが、劇団とプロデュース公演との一番の違いだと思っています。だからこそ、劇団は演技を磨ける場になるし、自分のいろんな可能性を探れる場所になるんだと思います。だからこそ、仕事において劇団のスケジュールを優先とするというルールが生まれるのです。
ただし、失敗が許されるためには、劇団員同士、そして、僕とも、お互いがライバルであり尊敬している、という関係を作り上げないといけません。
そういう関係になって初めて、お互いの失敗を、次への試行錯誤として許されるのだと思います。
なので、オーディションの後、スタジオ生という段階を経るのも、ライバルでありリスペクトしているという関係性を慎重に作り上げようとしているためです。」
―― 一度劇団員になっても、やめることはできますか?
鴻上 「もちろんです。なんだか、劇団を「人買い」かなんかと勘違いしているんじゃないですかね。劇団とは、そもそも存在しないものです。ただ、それぞれの頭の中にしかないのです。だからこそ、なんでもできるし、なんでもないのです。そういう意味で、僕は『虚構の劇団』と名付けました。」
―― 劇団に参加するメリットを、あらためて説明して下さい。
鴻上 「ぶっちゃけて言えば、僕の創るものに興味がないと難しいかもしれません。その点を別にすれば、俳優として一生活動を続けていくための、"本物の演技力"を身につけることができる、ということだと思います。それ以上は、なんだか自画自賛になりそうなのでやめます。けれど、プロの俳優になるためのあらゆることを身につけることができる場所になると思います。」