宇宙で眠るための方法について

第8回公演1984.2.21〜2.26 下北沢・ザ・スズナリ/ 2.29〜3.4 高田馬場・東芸劇場

作・演出 鴻上尚史

登場人物:出演

ハル 大高洋夫
クリアダンサー 岩谷真哉
断食芸人 名超寿昭
進行役 小須田康人
狂言回し 伊藤正宏
レディーラブ 長野里美
マリオン・デイビス 筒井真理子
緑菜子 山下裕子



劇場。
いつものように区切られた二つの空間。
舞台にも客席(ヒナ段)がおいてある。
観客の入場が始まる。
と、同時に、舞台上の客席にも、役(割を与えられた)者の入場が始まる。
彼ら、彼女らは、階段上の暗闇から現われ、観客が自分の席を捜すように、階段のそこかしこに坐る。
登場する役・者は、観客の数に比例してだんだんふえていく。
遅れてくる観客、もしくはどこに坐ったらいいか分からず、うろうろしている観客は、進行役と狂言回しが、
「こちら、あいております」
「どうぞ、前の方からおつめ下さい」
などと言いながら誘導している。

観客が入り終わったころ、役・者も階段に坐り終る。

役・者は、階段の上から、これから何が起こるのだろうと、期待に満ちた眼で客席を眺める。ひそかな笑みと共に。

しばしの沈黙。

が、もちろん、何も始まりはしない。
見つめられた観客が、奇妙な沈黙とバツの悪さに耐えられなくなりかけた瞬間、進行役が口火を切る。

 

「開場(プロローグ)1」

 

 

(RealAudio file 3'18)

 

 

 

 

クリアダンサー

皆様、本日はご来場いただき、まことにありがとうございます。
お手洗いは、右手奥、大理石の間、小劇場にはめずらしく水洗でございます。上演時間はその日の気分にて未定、休憩も役者が疲れたらとることになっております。

暗くなる。
火がポツポツと、ともされる。
階段に坐っている役者が、一斉にマッチをすり、タバコに火をつけたのだ。
火はユラユラと暗闇の中をゆれうごく。
小さな、少し、とまどいのある声でセリフがはじまる。

レディー 何日目。
断食芸人 たかだか、10日よ。
ダンサー お客さんは?
断食芸人 ちょっとね。
マリオン あなたのほうこそ。
ダンサー 大丈夫だよ。
進行役 いいなあ、若いって。
狂言回し 何言ってんだよ。
みなこ 何とかなりそう?
レディー 分かんないわ。
マリオン どうしたの。
ハル 何でもないよ。
進行役 オレだって。
断食芸人 ショウ・ビジネスって苦しいんだよ。
ダンサー そのとおり。
ハル ビジネスってのは何でも苦しいの。
レディー あ、そう。
断食芸人 何だよ、その言い方。
ダンサー 時間だ。


明りつく。
全員、ゆっくりタバコをもみけす。
さて、今度は自信に満ちた声でもう一回、初めから、

 


「開場(プロローグ)2」

 

 

(RealAudio file 3'26)

 

 

 

 


明りが入ると人々は背中を向けて立っている。
ゆっくりと振り向くと、どの顔も、不敵に笑っている。
林のように屹立している人々。
ゆっくり口がひらかれる。

名もなき夜のために
錬金術師が踊った午後に
そして二十世紀の終わりに
アジアの果て、弓形の島にて
時代と共に踊ろうとして
宇宙の壁にもたれかかり
たどりついた海は
宇宙で眠るための方法について


前面にあった階段は、三つに分かれ、舞台後方に移動している。
丁度、ギリシャの円形劇場のような形である。
その階段の上に、役者が散らばって坐っている。
これからの芝居は、階段の前、すなわち舞台前面の空間でおこなわれる。
役者は臨機応変に、ワキ役に変化する。

 


「第一幕 こうして私はどん底に転落した」

 

 

(RealAudio file 10'04)

 

 

 

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