ハッシャ・バイ

第25回公演
1991.8.2〜8.25 新宿・紀伊國屋ホール
9.4〜9.13 大阪・近鉄小劇場
※クローズドサーキット
1991.8.24 スパイラルホール(東京)〜8.25 心斎橋パルコ・クワトロ(大阪)
(福岡)スカラ・エスパシオ
(名古屋)名古屋クワトロ

作・演出:

鴻上尚史

登場人物:出演
<Wプログラム>


男1:

大高洋夫/池田成志

男2:

小須田康人/勝村政信

男3:

勝村政信/小須田康人

男4:

池田成志/大高洋夫/吉田朝

男5:

伊藤正宏

女1:

山下裕子/筒井真理子

女2:

長野里美

女3:

筒井真理子/山下裕子

女4:

利根川佑子

 

 私は一日中、砂浜に立っていた。そして、人々の目を盗んでは地面を堀り続けた。時折、年老いた女性が私に近づき、自分の墓を自分で掘る事はとてもいい事だと私に告げた。私の墓はもうすでに、夫によって用意されていると、その女性は言った。


私は、小さい頃から、母親というものを憎んでいた。それは、誰でもない私自身の母親のことだったのだけれど、今にして思えば、母親という個人を憎んでいたのではなく、母親という立場そのものを憎んでいたのかもしれない。その女性は、私の存在など無視して、そう波に向かって語り始めた。


私の母親に対する恐怖、それは母親という立場そのものの恐怖だったのだ。そんな事に気づかせてくれただけでも、私は世界の終わりに感謝している。世界の終わりが来なければ、私は私の終わりまで、気づかずにいただろう。そう、語った後、年老いた女性は、そう思いませんことと、優しい笑顔を私に向けた。

私はまだ、母親ではないですからと、地面を掘る手を止め小さく語れば、母親になろうとしてなる人はめったにいませんよ。多くの人は、母親にされるのです。子供がいようといまいと、関係なくね。と、女性はもう 一つの笑顔を私に向けた。

母親になろうとしてなる人がいるとすれば、それはきっと、とても不幸な人です。ところで、その穴はどこへ通じているのですかと、その女性は、唐突に話題を変えた。

母親のいない国に通じてはいないのですかと、その女性は言った。もしそうならば、もしそうならば、私はあなたを許すことが出来ない。




「助けて、殺される」

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