ゴドーを待ちながら

作:

サミュエル・ベケット
安堂信也+高橋康也翻訳より
(白水社刊)

超訳・翻案・演出:

鴻上尚史


登場人物:出演


ヴラジミール:

白石加代子

エストラゴン:

毬谷友子

少年:

松田洋治

ラッキー:

小須田康人

ポッツォ:

麿赤児


制作=サードステージ


ヴラジミール この死骸たちはどこから来たの?
エストラゴン このが遺骨達は?
ヴラジミール それよ。
エストラゴン 少しは考えてしまった。
ヴラジミール 一番最初に。
エストラゴン 死体の山よ、死体の!
ヴラジミール 見なきゃいいの。
エストラゴン つい見ちゃうのよ。
ヴラジミール そうよね。
エストラゴン 見ないようにしてもね。
ヴラジミール え?
エストラゴン 見ないようにしてもね。
ヴラジミール 私たちは自然に帰るべきなの。
エストラゴン もうやってみたわ。
ヴラジミール そうね。
エストラゴン それだって最悪のことじゃないわ。
ヴラジミール それって?
エストラゴン 考えたってこと。
ヴラジミール もちろんね。
エストラゴン ただしなくてすんだのにってこと。
ヴラジミール しょうがないでしょ。
エストラゴン えっ?
ヴラジミール しょうがないでしょう、世の中で一番多く言われてる言葉よ。
エストラゴン しょうがない。(なだめて)「まあまあ」ってのもあるわよ。
ヴラジミール そこをどうかひとつ。
エストラゴン 私はいいと思うんですが、何せ会社の方針が・・・。
ヴラジミール 私個人はいいと思うんですが、私の立場としては・・。
エストラゴン 本日は無礼講ということで・・・。
ヴラジミール あの時はそう思っていたんです。
エストラゴン なんでも言ってくれよ。
ヴラジミール 仕事というのはそういうものなんだよ。
エストラゴン 頭じゃ分かってるんです。
ヴラジミール どうして分かってくれないんです。
エストラゴン 私は一生懸命やってるんです。
ヴラジミール 頭と下半身は別なんです。
エストラゴン 減るもんじゃないんだからいいだろう。
ヴラジミール どうしても素直になれないんです。

沈黙

エストラゴン 小手だめしとしては悪くなかったわね。
ヴラジミール ええ、でも他の事をみつけなくちゃいけないわ。
エストラゴン ええと。
ヴラジミール えーと。


小須田康人(毎日新聞)

僕は戯曲っていうのは「ここがてっぺん」って、目印が書いて
ある地図みたいなものだと思っているんです。お客さんに見て
もらうのは目印の上に登った自分ですね。
  
それでどのルートから、そのてっぺんを目指すのかってことに、演出家との作業があるんですね。

共演者にしてもずっと一緒にやってるからできることというのもありまして。レンガ積みの作業だとしたら大抵の厚いレンガはたいがい積み上がっちゃうようになる。で今度はその上に、オブラートみたいな薄いものを全体のバランスの中でいかに積んでいくかっていう・・・。

長い時間をかけて他人と自分を掘り下げてものを作っていくのは僕にとって 何物にもかえがたい。なんてこんなこと言うとサービス業としての自覚がないみたいですけど(笑)。

僕は『考える』のは 好きだけど、人と議論したりすると話してるもののスケールが、どんどん小さくなるような気がして、言葉をつくしていくことが不毛だと思っているところがあるんです。

以前、それを鴻上に話したら「俺もそれは同じだけど、だからどれだけもやもやしたものを言葉で規定できるか、共有できるかということを考えている」って、言っていたことがありました。

基本的な思いは一緒でやってることが、まったく逆なのは、なんか面白いですね。